薩摩の國から

地域づくりを中心に様々なテーマについてまとめていきます。

オススメの5冊 vol.5(2022年)

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Griffith Observatory (2021/12/26撮影)

第5位「FACTFULNESS」

FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

本書は、世界情勢クイズの人間の正答率が(実質ランダム回答の)チンパンジーよりも低いという衝撃の事実から始まります。

 

この原因は、人間の誰もが持っている「パターン化本能(一つの例が全てに当てはまるという思い込み)」、「単純化本能(世界を一つの切り口で理解できるという思い込み)」、「過大視本能(目の前が一番重要であるという思い込み)」などの本能が引き起こすバイアスであり、本書では、これらの本能の抑え方、すなわち、事実に基づいた(ファクトフルな)世界の見方についてまとめています。

 

ビル・ゲイツ氏の「名作中の名作。世界を正しく見るために欠かせない一冊だ」という書評が印象的です。

第4「『原因と結果』の経済学」

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法

UCLA留学中に著者の津川先生にお話伺ったこと、また同大学公共政策大学院で定量分析を中心に学んでいることをきっかけに手に取った一冊。

 

本書のメインテーマであり、「最低賃金の引き上げ」と「雇用」のように、2つ以上のことがらに因果関係があるか否かについて、様々な角度から検証する「因果推論」は、経済学で今一番ホットな分野とも言われています。

・2つのことがらのうち、片方が原因となって、もう片方が結果として生じた場合、この2つのあいだには、「因果関係」があるという。一方、片方につられてもう片方も変化しているように見えるものの、原因と結果の関係にない場合は「相関関係」があるという。相関関係の場合、何らかの関係が成り立っているものの、因果関係はない。 

 

一番印象に残っているのは、差の差分法 (Differences in Differences) を用いて、「労働者の最低賃金を引き上げた場合に、負担が増した企業は雇用を減らすはずだとされていた常識が必ずしも正しくないことを自然実験の手法を用いて実証」した2021年ノーベル経済学賞受賞デビッド・カード氏の研究内容の解説箇所です。統計学初心者でも読みやすい内容となっているので是非。

この研究では「差の差分析」という研究デザインが用いられている。1つ目の差として、1992年前後の2つの州での雇用率の差を取り、2つ目の差として、ニュージャージー州ペンシルベニア州の雇用率の差を取った。この2つの「差」を取ることで、最低賃金の上昇が雇用に与える効果(「因果効果」と呼ぶ)を推定したのである。

ノーベル経済学賞を受賞したカードによる最低賃金の研究をどこよりもわかりやすく解説! | 「原因と結果」の経済学 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)

第3位「失敗の科学」

失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織

本書は、航空業界、医療業界等における様々なエピソードを用いて、人間が失敗するメカニズムや、失敗との付き合い方についてまとめられた一冊。

 

自分の過ちを認めず事実解釈を変えてしまう「認知的不協和」、早い段階で検証と軌道修正を繰り返す「リーンスタートアップ」、著名な心理学者ゲイリー・クラインが提唱し、事前に失敗を想定し検証を行う「事前検死」等の重要概念を学べるほか、困難を分割することや非難をやめることなど、明日から実践できることも多数掲載されています。

・ここで、マージナル・ゲイン(小さな改善)を思い出してほしい。問題が大きくて大変なら、小さく分解すればいい。(略)アフリカ全体へのRCTの実施は難しくとも、小さなプログラムに分けて検証すれば、明確な裏付けが取れる。

何でも単純に考えてすぐに誰かを非難するのはやめよう(略)不当に非難すればするほど、あるいは重い罰則を科せば科すほど、ミスは深く埋もれていく。すると失敗から学ぶ機会がなくなって、同じミスが繰り返し起こる。その結果、さらに非難が強まり、隠ぺい体質は強化される。

 

最も印象に残ったエピソードは、航空業界は、失敗を踏まえた検証を常々行っており、2009年にハドソン川に着水し、映画化されたUSエアウェイズ1549便は、機長個人の能力だけではなく、過去の失敗を踏まえた仕組みにも起因しているというものでした。本件については、映画も鑑賞し、より理解を深めたいと思います。

第2位「志高く 孫正義正伝」

志高く 孫正義正伝 新版 (実業之日本社文庫)

言わずと知れた孫正義氏の斬新な発想と大胆な行動に富んだ半生をつづった一冊。特に、ちょうど三十歳である私にとって、孫氏が大学三年生時に考えた「人生五十か年計画」は衝撃的で、自分がちっぽけな存在に感じられ、より志高く生きることを決意。

・大学三年生の孫は、常人には想像もつかない理念を持っていた。「人生五か年計画」のライフプランである。どんなことがあっても、二代で自分の事業を興す。名乗りを上げる。(略)三代で、最低、一千億円の軍資金を貯める。(略)四代、ここぞという一発勝負に出るー大きな事業に打って出る。五代、大事業を成功させ、六代で次の経営者にバトンタッチする。(略)そのためにいま何をすべきかを孫は徹底的に考えた。「一日ひとつ発明をするんだ」。驚くべきことに、孫はそれを実行したのである。

 

そのほか、参考となる考え方・視点が多数掲載されており、一読の価値間違いなしです。言い訳をしない、発想のプロセスを意識する、未来志向を持つという点については、今日からでも実践していきたいと思います。

ラッキーとアンラッキーは、みんなに公平にやってくる。だから、(略)言い訳するのがぼくはいちばんいやなんです。

・孫は、発明のプロセスには大きく三つの方法があることに気づいた。第一は問題解決法。何かの問題がや困難が生じたとき、それを解決するための方法。(略)第二は水平思考。逆転の発想。従来丸かったものを四角にしてみる。赤いものを白くする。大きいものを小さくしてみる。(略)第三は組み合わせ法。既存のものを組み合わせる。

迷ったときは遠くを見ろ」と孫は言う。大型買収を検討するときも、過去の実績や現在の企業価値は決め手にはならないのはいうまでもない。

 

仕事や勉強のモチベーションを上げたい方にオススメ。

第1位「多様性の科学」

多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織

本書は、多様性の重要性、そして多様性を反映させた生産性の高い組織改革の手法についてまとめられた一冊。UCLA公共政策大学院は、留学生率が15%程度でその他は主にカリフォルニア州出身の米国人生徒という環境であり、こうした中で、自分はどのように「多様性」に貢献できるのかという気持ちで読み始めました。なお、ここでの「多様性」は、性別や人種などに関連する人口統計学的多様性ではなく、考え方や物の見方などに関連する認知的多様性を指しています。

 

本書の具体的内容としては、まず、画一的な組織が盲点に気づかず判断を誤ることについて、同時多発テロを防げなかったCIA、エベレスト登山で遭難した登山隊などの事例を用いて、分かりやすく解説されています。また、現代社会における特徴的な問題の1つである「エコーチェンバー現象(同じ意見の者同士でコミュニケーションを繰り返し、特定の信念が強化される現象)」についても触れられています。さらには、心理的安全性が高い文化の構築、支配型ではなく民主的なリーダー、他分野交流を促進するネットワーク科学など、多様性を反映させた生産性の高い組織改革の手法についても、様々な事例が紹介されています。

 

<事例>

Amazonでは、議題メモをまずはじめに黙読し、最も地位が高い者が最後に意見を述べます。

スティーブ・ジョブスは、ピクサー・アニメーション・スタジオのトイレを一か所に設定しました。その結果、偶然の出会いが生じ、第三者の視点を得るチャンスが増加しました。

・「ブレインライティング」とは、各自がアイデアを書き出し、壁に貼って投票すること。アイデアを匿名化することで、発案者同士の力関係によらず、アイデアの質そのものが評価されます。

 

筆者がいうとおり、今後は集合知の時代であり、どんな方でもこの本から学べることが多いのではないかと思います。是非ご一読いただき、実践していただきたいです。

・実際、今日の社会はまだまだ個人主義の傾向が強い。我々はこれまでなんでも個人に焦点を当てて、個人が知識や洞察力を高める方法や、個人が認知バイアスから逃れる方法を模索してきた。(略)もちろんそれも大事なことだが、個人ばかりに光を当てて全体論的な視点を失うようなことがあってはならない。  (略)集団脳、集合知心理的安全性、融合のイノベーション、ネットワーク理論。こうしたコンセプトはみな部分ではなく全体から生まれている。現代社会において非常に重要なことばかりだ。今日の我々に差し迫る問題はあまりに複雑で、個人の力だけでは到底解決できない。これからは集合知の時代だ。