第10位「ニッポン景観論」
本書は、日本の伝統的風景が近代化に伴い破壊されていることについて、イェール大卒の東洋学者アレックス=カーが警鐘を鳴らしている一冊。多数の写真と共に、電線、看板、巨大コンクリート施設などの問題点が挙げられており納得。
・これからの公共事業で大きな課題となるのは、「足し算」より「引き算」です。(略)実際、アメリカでは、この数10年で数百の不要なダムを取り壊しました。しかし日本では取り壊し作業はほとんど顧みられず、その結果、各地に醜い構造物、錆びた看板、閉鎖した工場などが溜まり、実に殺伐とした汚らわしい光景が広がっています。
・建築家の才能とは、大きくて奇抜なものを作ることばかりを言うのではありません。大きなものをつくりながら、いかにそれを周囲の景観や歴史とつなげていくか。その課題を考慮しながら、創造性も発揮する力量こそ、建築家の存在意義であるはずです。
第9位「学力の経済学」
教育経済学で著名な中室牧子氏による37万部越えのベストセラー。本書では、「子どもをほめるときには、能力でなく、具体的に達成した内容を挙げることが重要」など、エビデンス(科学的根拠)に基づく費用対効果の高い教育(※)を知ることが出来ます。
※あくまで、大量の個人データに基づく規則性・傾向であり、個別具体の事象に当てはめたときにうまくいくかどうかは別の話。
なお、2024年12月には、中室氏が「科学的根拠(エビデンス)で子育てー教育経済学の最前線」という本を出版されたので、気になるところ。
<ポイント>
・教育経済学者では、たった一人の個人の体験よりも、個人の体験を大量に観察することによって見出される規則性を重視する
・アウトプットではなくインプットに、遠い将来ではなく近い将来にご褒美を与えるのが効果的
・子どもをほめるときには、もともとの能力でなく、具体的に達成した内容を挙げることが重要
・人的資本への投資はとにかく子どもが小さいうちに行うべき
・非認知能力は将来の年収、学歴や就業形態などの労働市場における成果に大きく影響する
・国民の税金を投じて収集されたデータは国民の財産
・能力の高い教員は、子どもの遺伝や家庭の資源の不利すらも帳消しにしてしまうほどの影響力を持つ
・カリフォルニア州では教員の「付加価値」はウェブ上で公開されている
・少子化が進む中では、教育の「数」を増やすよりも教員の「質」を高める政策の方が有効
第8位「ディズニーCEOが実践する10の原則」
ウォルト・ディズニー・カンパニー会長・前CEOのロバート・アイガー氏の人生を追体験できるような一冊。ABCテレビの雑用係からどのようにディズニーのトップに上り詰めたのか、また、ピクサーやマーベル、ルーカスフィルムの買収などディズニーにまつわる具体的なエピソードを交えながら、リーダー論について学ぶことが出来ます。ビルゲイツ氏も本書をお勧めしているようです。
<リーダー論など>
・「完璧への飽くなき追求」について、私はよく語っている。(略)それは、どんな犠牲を払ってでも完璧を求めることではない。ほどほどに満足しない環境を作ることだ。「ほどほどでいい」と言いたい気持ちを押し返すことなのだ。
・謙虚に、誰かのふりをせず、自分が何を知らないかを知ることからはじめなければならない。とはいえ、リーダーの立場にいる限りは、へり下りすぎて周囲の人を導けないようではいけない。
・プレッシャーの少ない状態で、自由な発想で物事を別の角度から見てみる時間を毎日少しでも持つことは欠かせない。
<ディズニーの今後の課題>
・ますます「コンテンツ」の数も配信経路も増えていく中で、コンテンツの質が一層重要になる。
・消費者がディズニーのコンテンツをどこでも簡単に手に入れ、デジタルに楽しむことができなければ、私たちは時代に乗り遅れてしまうだろう。
・中国やインドといった世界で最も人口の多い地域をさらに深掘りしていく必要がある。
第7位「1秒で答えをつくる力」
本書は、ナインティナインや南海キャンディーズらを指導した吉本興業NSC講師が、これまであまり言語化されることのなかったお笑い芸人の頭の働かせ方について、48項目にわたりまとめたもの。毎回即座に頭を働かせ「答え」を作り出すプロセスは、お笑い芸人だけでなく、ビジネスパーソンにもきっと活きるはずです。
・お笑い芸人は1秒で「おもしろそう」と思わせなければ、見ている人にチャンネルを変えられてしまう。
・トーク番組などでの彼らの頭のメカニズムを説明すると、「考えはじめる→思いつく→発言する」のではなく、頭をアイドリング状態にしておくことで「どの話をするか決める→発言する」の2つで思考が完結するようになっています。(略)大事なことは、「チャンスかも?」とゼロから考え始めるのではなく、常に自分の頭を整理し、それを披露できそうなタイミングを探し続けることです。
・「予測する」というのは完全にツッコミ的な考え方です。(略)予測は必ず「観察」から始まります。相手の様子や性格、その場の雰囲気など、状況を把握してはじめて予測を立てる準備が整います。観察が完了したらそのあとに起こりそうなことを2~3つ想定します。「そんなに?」と思うかもしれませんが、特殊なことを考える必要はありません。
・ボケと呼ばれる非常識に聞こえる発言について考えてみると、実は破天荒な発言が受け入れられるわけではなく、「常識」というたしかな土台があってはじめて相手に伝わる言葉であることがよくわかります。
第6位「バリアバリューの経営」
著者の垣内氏(株式会社ミライロ代表取締役)は、岐阜県中津川市出身。車椅子から見える高さが106センチという独自の視点を活かし、ユニバーサルデザイン市場を牽引している。同社は、ユニバーサルマナー検定や、デジタル障害者手帳「ミライロID」など、多様性を尊重する取り組みを展開。本書では「バリア(障害)」を「バリュー(価値)」に変え、新しいビジネスを創造する「バリアバリュー」という考え方を提唱。この発想は、世界ゆるスポーツ協会代表理事の澤田智洋氏による「マイノリティデザイン」とも通じています。
<ポイント>
・障がいは独自の価値や視点を生み出し、イノベーションやビジネス創出につながる可能性を秘めている。
・障害者手帳は現在、各自治体の裁量で約300種類も存在し、窓口での確認に時間がかかる、不正利用が生じるなどの課題がある。この課題を解決するため、ミライロはデジタル障害者手帳「ミライロID」を開発。当初は普及率が低かったものの、内閣官房の通知を契機に鉄道会社などへの導入が進み、普及が加速。
・日本の総人口に占める障害者の割合は約9%、高齢者は約29%と、合計で約4割に達する。また、身体機能や認知機能が衰えた高齢者のニーズは、障害者のニーズと共通している。このような中、人口減少が進む日本にとって、障害者&高齢者マーケットは可能性を秘めている。
・社会には「環境」「意識」「情報」の三つのバリアが存在する。
・ミライロは「意識」のバリアに注目し、「ハードは変えられなくても、ハートは変えられる」を理念に教育研修事業を展開。例えば、ミライロは、店舗の従業員等が、障害者に配慮できるよう、ユニバーサルマナー検定を開発。研修以上のインパクトを持ち、取得者の満足度向上や、就職・転職へのメリットが動機付けとなっている。嵐の櫻井翔氏が取得したことを契機に大ブレイク。
・「情報」のバリア解消には、まず、バリアフリー地図アプリ「Bmaps」が挙げられる。ミライロIDと統合し、外出先の情報収集からチケット予約、現地での利用までシームレスな外出体験を提供。次に、障害者の声を商品開発に反映する「ミライロ・リサーチ」が挙げられる。これは、調査報酬を通じて経済にも貢献する仕組みで、例として、視覚障害者が洗濯後にペアを探すのに苦労しているという調査結果を受け、足裏部分に指で触ってサイズを確認できるマークを入れる事例がある。
・改正障害者差別解消法(2024年4月施行)により、民間企業にも不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供が義務付け。無関心でも過剰でもない「ほど良いサポート」を実現するには、当事者に直接聞くなど、一人一人に向き合う姿勢が求められる。
第5位「町の未来をこの手でつくる」
補助金に頼らない経営や日本初の地域熱供給システムで、地方創生の成功事例として名高い岩手県紫波町のオガールプロジェクトについての一冊。前々から存じ上げてはいたのですが、ようやく読むことが出来ました。
・オガールプラザは「官民複合施設」と位置付けられているが、実はこれらの民間テナントからの家賃や共益費の一部、固定資産税などがめぐりめぐって、図書館など公共施設部分の維持管理費を長期にわたって賄う仕組みになっている。これほどファイナンスの面まで考えられた図書館を、私は国内で見たことがなかった。
・証券化はメリットも見込まれるが、(略)投資家からは事業計画の実効性が厳しく問われる。公共事業としては異例だろう。
・中央棟のメイン施設となる図書館の天井に材が貼られず、配管が見える理由も、MINTO機構側の「紫波町のみなさんは、図書館に天井が貼られていないからといって、本を借りないですか?」という一言から。建設費用の削れる部分は最大限、削る努力がなされた。
・新しい紫波町役場庁舎や、住宅地であるオガールタウンなどの建物に、バイオマス燃料を利用した熱を供給、給湯や冷暖房に使われている。バイオマス燃料は、紫波町産の木材で、間伐材や製材の過程で生じた木質チップ。この「地域熱供給システム」と呼ばれる事業は国内でもあまり例がなく、先進事例として環境省のモデル事業にも選定されている。
第4位「誰も断らない」
「誰も断らない」神奈川県座間市生活援護課に迫る一冊。生活保護法や生活困窮者自立支援法についても理解を深めることが出来る。フードバンク、子ども食堂、ユニバーサル就労支援といったキーワードについても学ぶことが出来ます。
・「断らない相談支援」。これは生活援護課が掲げる理念だ。文字通り、外国人であろうが、市外の人間だろうが、座間とつながりができた人間の相談は断らずに聞く。
・ここまで来てしまうと、打つ手が限られてしまう。なるべく早い段階で相談してもらうには、困窮状態に陥っている人との接点を増やす必要がある。それで、「断らない相談支援」という看板を掲げました。
・大切なのは、できないことを強いるのではなく、できることに注目することだ。相談者に何ができるのか、何からなら始めることが出来るのか。朝が苦手ならば、昼から出来る仕事はないか。ハードルの低いところから始め、そのハードルを少しずつ上げていく。そうやって徐々に自信をつけてもらうことが、社会に出ていく近道だと池田は考えている。
・つなぐシートは、役所内の各部署が情報を共有するためのツールである。相談者本人の同意を得た上で、最初に相談を受けた窓口の担当者が、その人の名前や住所、家族構成、健康状態、障がいの有無、収入と支出、引きこもりの有無など15項目を聞き取り、つなぐシートに記入した後、住民を適切な窓口につれて行き、次の担当者にシートを渡して引き継ぐ。
・林がつなぐシートを導入した真の狙いは困窮者の早期発見だ。例えば、生活に困窮している住民の中には、社会保険料や税金を滞納せざるを得ない状況に置かれている人も少なくない。滞納や分納の相談で、税金を扱う収納課に相談に来る住民も多い。その時に、つなぐシートがあれば、具体的な相談支援のために生活援護課に繋ぐことができる。その段階で発見できれば、早くから困窮者に寄り添える。
第3位「ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか」
本書は、産業再生機構や日本共創プラットフォーム(JPiX)で数多くの企業改革に携わってきた冨山和彦氏による著作です。少子高齢化に伴う深刻な人手不足と、生成AIやデジタル化の進展によるホワイトカラーの急速な仕事代替(人余り)が同時進行する日本。この未曾有の状況において、組織や個人がどのように生き残るべきか、具体的な戦略と指針が語られています。人口減少、地方創生、教育といった観点でも大いに学びのある一冊。
・これからの日本は、少子高齢化による深刻な人手不足と、デジタル化の進展による急激なホワイトカラーサラリーマンの減少と人余りが同時に起こる社会に突入する。人手不足はローカル産業で生じ。人余りはグローバル産業で顕著に起こる。
・このような正反対の構造的不均衡を解消し、労働供給制約下の成長と実質賃金上昇を実現するためには、付加価値労働生産性を上げること、特に雇用者比率的な拡大を続けるローカル経済圏の生産性を大幅に上げるしか道はない。
・賃金上昇と労働生産性上昇のサイクルを構築するうえで重要なのは、外部労働市場を整備し、企業や事業や人材の新陳代謝を促進することである。さらに、労働生産性上昇のためのあらゆるイノベーションを促進し、労働生産性を高める新しいビジネスモデルや新しいテクノロジーを使いやすくする制度改革、規制改革を実行することである。
・社会全体として、ボス仕事を担うアッパーホワイトカラーだけがグローバル産業で生き残ることになり、ロウワーホワイトカラーは消滅していく、あるいは賃金水準は下がっていく。
・結局、地域インフラ問題の解も、付加価値労働生産性を上げることしかない。(略)一つは、人口減少のなかで需要密度を維持する方法である。これは「集住」しかない。コンパクト&ネットワークだ。(略)もう一つ考えなければならないのは、DX、CXによって、供給サイドの生産性を上げることだ。・少子化は(略)「可処分所得」と「可処分時間」との関連性が大きい。(略)結局、ローカル経済圏で働く人々の付加価値労働生産性を高めること、グローバル経済圏で働いていてもローカル経済圏のメリットを享受できる居住形態をデジタル技術などで実現すること、こうした東京圏外における生き方、暮らし方をより豊かに大きくすることなしにこの問題の解決は困難である。
・アンラーンとリラーン。リスキリングがあるからこそ、人生お楽しみはまだまだこれから、なのである。
第2位「マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう」
コピーライターであり、世界ゆるスポーツ協会代表理事を務める澤田智洋氏の著書。本書で提唱される「ゆるスポーツ」は、「スポーツ弱者を世界からなくす」というミッションのもと、誰もが楽しめる新しいスポーツとして考案され、木村拓哉氏をはじめ10万人以上が体験しています。本書のテーマは、「マイノリティ」を「社会的弱者」ではなく「社会の伸びしろ」として捉え、「弱さ」を活かせる社会を目指すこと。澤田氏は、視覚障がいのあるご子息を育てる経験からこの考え方を得ており、本書ではその考え方と、「ゆるスポーツ」などの多様な取り組みが詳しく紹介されています。また、澤田氏は元・大手広告会社で数々のCM制作を担当していたコピーライターでもあり、概念や言葉をどのように効果的に伝え広めるかについての知見も豊富です。全体を通して、言葉の力強さが感じられる一冊です。
・つまりマイノリティとは、「社会的弱者」という狭義の解釈ではなく「社会社会の伸びしろ」。人はみな、なにかの弱者・マイノリティである。 僕も、もちろんあなたも。
・ ハンドソープボール、イモムシラグビー、ベビーバスケ……。 「スポーツ弱者を、世界からなくす」ことをミッションにつくりはじめた「ゆるスポーツ」は、簡単に言うと「勝ったらうれしい、負けても楽しい」「運動音痴の人でもオリンピック選手に勝てる」「健常者と障害者の垣根をなくした」新しいスポーツで、これまでに90競技以上を考案して、10万人以上の方に体験してもらいました。 そして、木村拓哉さんやKAT-TUNの中丸さんといったタレントのみなさんにも、メディアで挑戦していただけるまでのエンターテインメントになりました。
・①広告(本業)で得た力を、広告(本業)以外に生かす ②マス(だれか)ではなく、ひとり(あなた)のために ③使い捨てのファストアイデアではなく、持続可能なアイデアへ 今、僕のすべての仕事は、この3つの方向性に沿っています。
第1位「世界の食卓から社会が見える」
東京大学大学院、クックパッド株式会社を経て、世界の台所探検家である岡根谷実里氏。本書は、彼女が世界各地の家庭を訪れ、一緒に料理を作りながら、その背景にある社会や文化について語る一冊。私自身、留学中に米国文化と日本文化と間で感じた大きな違いの一つが「食」だったように思います。本書を読むと、まるで世界中を旅しているような感覚を味わえます。なお、岡根谷氏とは、学生時代に小布施若者会議というイベントでお会いしましたが、自分の軸をしっかり持っている印象深い方でした。
・私が台所探検をしていて興奮する瞬間は、日常の食卓にのぼるさもない料理から、世界の大きな動きが見えてきた時。その人たちにとっては当たり前すぎて何とも思わない食事に、世間を賑わせているニュースや、むかし社会科の教科書で見た歴史的出来事が関連していて、料理すること、食べることを通して世界がくっきり見えてくるのです。
・「ブルガリアの人たちは本当にヨーグルトを食べているのだろうか?」という疑問を深堀してみたら、実は想像していたような由緒正しい伝統食ではなく、政治的に強化された人民食としての側面があることが見えてきた。(略)社会主義時代の政権が別の食料政策を取っていたら、あるいは時の政権が資本主義だったら、ヨーグルトはここまで重要な食物になってはいなかっただろう。
・40年の時を経て、パンはスーダンの食事の一部となった。政府の補助もあって普及した「白くておいしくて安価な主食」は、台所に立つ人の負担を軽くし、確実に人々のお腹を満たした。その功績は大きい。しかし一番肝心な主食を外に頼る体質になってしまったゆえに、生活や社会の基盤が脆弱になるという結果をも生んだ。
・未来のタンパク源をめぐっては、代替肉や培養肉、昆虫などの新技術が近年注目されているが、それらが受容されるのは、社会的にも、そして味覚的にも多少の時間がかかるだろう。その点ティラピアは、古代エジプトから存在し、世界に広く行き渡っている食材だ。魚の一種であり、抵抗は少ない。(略)アフリカの台所で食べた魚は、環境・社会・味覚のすべての観点で優れた、未来の食を救うヒーローだったのだ。
・自国内の資源でやりくりいするキューバ式オーガニック農業と、資源大量投入型の中国式農業。片や安全安心だけれど限られたものしか食べられず、もう一方は安全性の疑問はありつつ選択肢が多く飢えの心配がない。選ばなければならないとしたら、自分はどいらの社会で生きたいだろうか。環境と経済と人の生活と、すべてを満たす農業の未来はどこにあるだろうか。