今年は、肩ひじ張らず、興味の向くままに本を読んだ気がします。
・第10位「ゼロ秒思考」
本書は、「任意のテーマについて、1分でA4一枚にメモ書きする作業を毎日10回繰り返すこと」の重要性を説いているもの。試しにしばらく実践してみたところ、頭が整理され、唐突な質問にも対応できるようになった気がしています。読むだけではなく、実践して初めて価値が分かる本です。
第9位「訂正する力」
本書のテーマは、「過去との一貫性を主張しながら、『じつは・・・だった』という発想で、過去の解釈を変え、現実に合わせて変化する力」、すなわち、「訂正する力」。今後ますます複雑化していく世界(VUCA)において、思考停止せず現実を直視して訂正していくことは、重要な視点だと思います。なお、過去を都合の良いように解釈する歴史修正主義のスタンスが取られているわけではありません。
<印象に残った箇所>
・日本には、まさにこの変化=訂正を嫌う文化があります。(略)そのような状況を根底から変える必要があります。そのための第一歩として必要なのが、まちがいを認めて改めるという「訂正する力」を取り戻すことです。
・結局のところ、それぞれの国の文化のなかで、伝統も残しながら、それをどうアップデートして未来につなげていくかという発想で進めるしかない。ところが日本では、それがすぐに、ゼロかイチか、過去を否定するか肯定するか、リセットするか何も変えないかの対立の議論になってしまう。少しでも動こうとすると両方の勢力から批判される。そういう風土を変えなければなりません。
・目をそらすことと「再解釈」することの違いは重要です。その違いがわからなくなると、訂正する力と歴史修正主義の違いもあいまいになってしまいます。訂正する力は、けっして、自分に都合よく現実を見る力のことではありません。むしろ現実を直視する力です。
第8位「外事警察秘録」
警察官僚、前国家安全保障局長の北村滋氏の著書。北朝鮮による日本人拉致事件、日本赤軍メンバーの追跡、オウム真理教「ロシアコネクション」の解明、プーチンのスパイとの攻防、山口組マフィア・サミットの阻止、中国スパイのTPP妨害工作の摘発など、海外からの脅威に対する「外事警察」の極秘任務について語られています。一つ一つのエピソードに臨場感があり、ハラハラドキドキで、一気読みしてしまいました。また、重責を担ってきた北村氏の仕事に対する姿勢も大変参考になりました。
・”会談は、終始ソフトなムードで幕となり、握手を済ませて部屋を出る際、プーチン氏からこう言葉をかけてきた。「同じ業種の仲間だよな、君は」 私は、プーチン氏が私をどう見ているか、この会談に何を求めていたかを理解した。腹の中を掴み出されるような言葉だが、プーチン氏の人間観や人心掌握術が凝縮されている。”
・常に政策決定者に最新の情報を伝えるという事柄の性質上、素材の提供は直前であり、 短時間での頭の整理と素材の大胆な取捨選択が求められる。(略)ある程度予備知識のある対象に、一主題について一言で何を語るかを考える。その上 で、それぞれ の事項から構成される全体のブリーフィングの展開と流れを大まかに頭の中でまとめることが最も重要である。”
第7位「きみのお金は誰のため」
ゴールドマンサックスの金利為替トレーダーを経て、現在は社会的金融教育家の田内学氏の著書。「お金自体には価値がない」「お金で解決できる問題はない」「みんなでお金をためても意味がない」という3つの謎をめぐる経済教養小説。お金について、個人ではなく、社会全体という視点で捉える場面が多く、仕事柄共感する箇所が多々ありました。読みやすいので、学生にもオススメ。
<印象に残った箇所>
・一人ひとりの視点では、僕らはお金に価値を感じている。せやけど、全体のお金が増えすぎるのは良くなさそうや。僕が言うてるのはそこや。社会全体の視点に立てば、お金の見え方が変わる。
・お金自体に価値があるわけやない。税を導入することで、個人目線での価値が生まれて、お金が回り始めるんや。(略)みんながお互いのために働く社会に変わったんや。
・お金を払うというのは、自分で解決できない問題を他人にパスしているだけなんや。しかし、僕らはお金を払うことで解決できた気になってしまう。
・少子化が進めば、働く人の割合が減るんや。極端な話、働かない老人だけになったら、営業しているお店はあらへん。どんなに札束を握りしめても、生活はできないんや。
・日本にとって高い値段になって嬉しいのは、外側にある外国に売るときだけや。
・みんな、上の世代に文句を言うんや。『上の世代の借金なんて自分たちは知らん。なんで背負わんとあかんのや』ってな。それなのに、自分の親からは、お金を相続して当然やと思っている。
第6位「半導体戦争」
現代の最重要資源である半導体を通じて、米国、中国、台湾、そして日本等をめぐる地政学を学ぶことが出来る一冊。日本のエピソード(戦後の経済復興、日米経済戦争等)も充実。
<印象に残った点>
・半導体は、機械学習、自動運転車、iPhone等の先進技術に必要で、最重要資源。米中対立の命運も握る。
・半導体産業は、少数企業に依存しているのが特徴。実際、世界最先端のプロセッサ・チップのほぼすべてを台湾のTSMCで製造。
・TSMCは、スタンフォードPhDでTIの幹部、中国系米国人モリス・チャン氏を迎え、国策で立ち上げた企業。その他にも、米国一流大学のPhDを揃え、シリコンバレーと協力しながら成長。
第5位「帝国ホテル建築物語」
本書は、“世界一美しいホテル”“東洋の宝石”として絶賛され、1923年に完成した帝国ホテル二代目本館「ライト館」の建築秘話物語。この時期の日本の物語は、「0から1を作る」ような話が多く本当にワクワクします。二十世紀を代表する米国人建築家であるフランク・ロイド・ライトの飽くなきこだわりに驚くとともに、完成に向けて全力を尽くした林愛作、遠藤新ら日本人の熱い思いに打たれました。渋沢栄一や辰野金吾、谷口吉郎など著名人も登場するので必読です。
ライトは日本の建物や暮らしを、そのまま模倣はしない。いったん自分の中に取り入れてから、西洋の暮らしぶりに合うように、要素だけを取り出して見せる。だから日本人には、どこか日本的なのか理解しにくい。しかし西洋人には、きわめて新鮮に感じられるのだ。帝国ホテルの設計者として、林愛作がライトを選んだ理由を、新は改めて理解した。この感覚で日本を代表するホテルを建てれば、日本人の目には西洋的に映り、西洋人の目には日本的に感じられる。世界のどこにもない魅力的なホテルが、かならずや日比谷の地に出現するはずだった。
第4位「直島、誕生」
瀬戸内海に浮かぶ直島は、草間彌生や宮島達男、安藤忠雄らの作品がひしめく「現代アートの聖地」であり、世界中から観光客が押し寄せます。本書は、「地中海美術館」をはじめとする直島プロジェクトの創設秘話満載の一冊。現代アートや、地域活性化、また0から新規事業を作り上げるプロセスに興味がある方にオススメです。
・人に訴えかけ、人を集めるためには、直島が直島らしくあらねばならない。そのためには、瀬戸内海ならでは、この場所ならではの特性を生かし、そこでしかつくれない風景をつくり出すのである。
・作家に直島に来てもらい、制作する。作家のスタジオが移動してきたように”制作”を中心にして直島のアートをつくり上げていく。それは、これまでの研究者、キュレーターらによる学究的な解釈によるアート作品の展示とはまったく異なるアプローチである。作家がいて、作品が生まれてくる時間を皆で共有する。それが、直島らしいアートのあり方に思えた。
・アメリカ一辺倒から脱却し、日本の現代アートとして世界に評価されるアーティストをなるだけ取り上げ、直島に残すように努力してきた。直島の作品には、そのどこかにアジア的、あるいは日本的という問いが含まれている。
・安藤さんの個性は際立っているが、一方で関係を大事にする。それは施主はもちろん、仕事にかかわるその他の人々や、ときには建物の建つ場所の自然や歴史という場合もある。人であればどんな関係がもてるのか、何をしたいと思っているのか。あるいは環境であれば、その場所とどんな関係が持てるのか。
第3位「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか」
総務省の大先輩に山口周氏の著書をオススメされ、手に取った一冊。現在働いている岐阜県SDGs推進課でも「アート」の力の必要性を実感していたので、大変参考になりました。
<ポイント>
・進化のスピードが速く、複雑化していく世界(VUCA)において、論理的・理性的な「サイエンス」型意思決定には、差別化喪失、意思決定の長期化・膠着等の弊害がある。
・代わりに、全体を直感的に捉える感性と、「真・善・美」が感じられる打ち手を内省的に創出する構想力や想像力といった「アート」の力が求められる。
・また、過去の経験に基づき判断を行う「クラフト」という力もある。
・説明責任を果たす必要があることを考えると、アートが主導し、サイエンスとクラフトが脇を固めるのが望ましい。PLANをアート型人材が描き、DOをクラフト型人材が行い、CHECKをサイエンス型人材が行うのが一つのモデル。
・経営トップ自身がアートの担い手である場合(例:スティーブ・ジョブス)と、権限委譲する形でその担い手を指名する場合(例:千利休と織田信長・豊臣秀吉)がある。
・「美意識」を鍛えるには、絵画を見る(特に、観察眼を鍛え、パターン認識から自由になる)、哲学を読む(特に、哲学者が、その時代に支配的だった考えについて、どのように疑いの目を差し向け、考えたかというプロセスや態度に注目する)、文学を読む(特に、レトリックやメタファーに注目する)等が推奨されている。
第2位「論理トレーニング」
立正大学文学部教授(元東京大学教養学部教授)の野矢茂樹氏の著作。公務員にとって、「日本語を正しく読み、書くこと」は基本。本書では、手ごたえのある演習問題が多数収録。例えば冒頭の例題では、「そして」と「しかも」の効果の違いを自覚して用いているかどうか、試されます。一つ一つの問題をじっくり解くことで、確実にその力が身に付くので、是非チャレンジしてみてください。
第1位「キングダム」
キングダムは、中国の春秋戦国時代を舞台に、元下僕の主人公・信(しん)が、後に始皇帝となる秦王・政の下で、天下の大将軍を目指して邁進するサクセスストーリー。累計発行部数は1億部を突破し、映画化もされました。本作品は、1人1人のキャラクターがとにかく個性的・魅力的で、読んでいて面白く、ワクワクします。また、信はもちろん、各武将の言動や考え方から、リーダーシップ、組織づくりなど、気づきを得られるように感じました。